『雲の墓標』阿川弘之

高校の恩師から卒業の際に渡された『読書リスト』。

まだ半分も読めていないという体たらくですが、なんとか卒業までにあと数冊読みたい。

今回読み終わったのは阿川弘之の『雲の墓標』

学業を中断し、戦争へと巻き込まれていく学生の心情が

生活記録風に淡々と書かれている。

作者自身も東大の国文科の学生だったが、繰上げ卒業し、

海軍予備学生として海軍に入隊したそうで、

その経験を基に書かれているからか、とても現実味がある。

軍への入隊、そして戦況や軍での理不尽に対して憤りなどを時々あらわにしながらも、

国のために死ぬことにはむしろ肯定的な主人公・吉野であるが、

「しかし、自分たちにはもはや、なにものかを選ぶということはできない。定められた運命の下に、自分を鍛えることだけが、われわれに残された道だ」とあるように、

どこか諦めたような部分も垣間見得る。

そのような感情のふらつきが、精神的に訓練され自ら志願した兵士とは違う、

学生らしさ、ひいては親近感を与えるのかもしれない。

 

また、国文学科であった吉野は、最初、入隊した直後の頃は

万葉集に想いを馳せる描写も多く見られるが、

時間が進み、戦況が悪化していくにつれてその描写もなくなっていく。

段々と、彼の心が戦争に取り憑かれ、疲れやつれ果てていくのが

ありありと分かる。

 

ありきたりな感想になるが、

戦争が人の心をどのようにして疲労させていくのかを

改めて目の前に突きつけられた。

ただ平和を叫ぶ作品ではなく、

淡々と冷静な口調で語られていくからこそ、

心に深く残るものがあった。